落雁
2人が倒れたところで、いったん呼吸を整えた。
芽瑠は?
部屋を見渡してみる。
遠くのほうで、声が聞こえたような気がした。
殴りかかってくる男をなんとかかわして、声のするほうに駆け出した。
どうやら隣の部屋らしい。あたしは思い切り襖を開けた。
「芽瑠!!」
あたしが見たのは、何もない四畳半の部屋に、制服姿の芽瑠が倒れているところだった。
芽瑠の口にはタオルが突っ込まれている。
そして、芽瑠の隣に監視とでも言うような、金髪の少年。あたしを見て驚いているようだ。
「てめぇ、芽瑠にさわんじゃねえ!!」
まだ状況が分かっていないのか、動きがもたもたしている金髪の胸倉を掴み、思い切り殴った。
倒れたそいつに馬乗りになって、容赦なく何回もそいつの顎を殴った。
金髪が気絶する隙を狙って、芽瑠の口に突っ込まれていたタオルを取る。
「芽瑠!大丈夫か?何かされてない?」
芽瑠も大きな目をさらに大きくさせて、あたしを凝視していた。
「み、とちゃん!なんで…」
すぐに背後の気配に気付く。
さっきの3人だ。
あたしはすぐに立ち上がり、鉄パイプを握り締めた。
自分から男に近づいた。できるだけ、芽瑠と遠ざけないと危険だ。
「てめぇ!どっから入ってきた!!」
「どうやってここまで来たんだ!」
まるで、「俺らが轢いたはず」とでも言いたげな顔だ。
「ルーフにへばりついて、ここまで来たんだよ」
あたしは自分から踏み込んだ。
3対1じゃ、どんな相手でも不利なのは明白だ。
だけど、できるだけ芽瑠に被害が少ないように。
もう遠慮はしない。入院くらいしてもいいやつらだ。
あたしは思い切り、鉄パイプを男の頭に振りかざした。
頭蓋骨は折れない程度。
ごん、といい音がして、1人は床に倒れこむ。畳に鼻血がしみ込みだす。
相当体に悪そうだ。頭打って気絶なんて。
2人が同時にあたしに殴りかかってきた。
どうする、あたし、どうする。
1人の顔面を鉄パイプで殴った。
嫌な感触がした。
1人は倒れこんだが、もう1人の赤茶色の髪の毛はあたしを殴った。
がん、と衝撃音がして、脳みそが揺れる。
芽瑠の悲鳴が聞こえた。
軽い。
女だからって、加減しやがって。
「うおおおおおりゃああああ」
すぐに顔を上げて、そいつの胸倉を掴んだ。
はやく、こいつをぶっ倒れさせないと。
さっきのパイプで顔を殴った男が起き上がらないうちに。
あたしは何も考えないで、こいつが気絶しますように、ということだけを願って、殴り続けた。
赤茶色の髪の毛は倒れこんだ。
あたしはすぐに後ろを振り返る。
「っ、ぐ」
視界に入ったのは男の腕だった。
鳩尾に重たいものが入る。
足の力が抜けて、冷たい畳にへたり込んでしまう。
やばい。やられる。
息ができない。痛い。
顔をあげないと。
次の攻撃を覚悟して、目をかたく瞑った時だった。