落雁
「えー、今日からこの学校に通う事になった」
「神谷司です」
大きな手のひらを顔の横でひらひらさせる。
細くて長い指が綺麗に見えて、あたしはまた鳥肌が立った。
頭から冷水をぶっかけられた感じだ。
「え、イケメン…じゃない?」
隣の男子があたしに耳打ちをする。
「…お前は女子か」
「いやぁ、上玉じゃね?」
まさかあたしの正体を知っている謎の男が、転入してくるなんて。
しかも同じクラス。
あまりにも不自然すぎる。
河川敷と言い、登校時の時と言い。
あいつが妙にあたしに関わっている。不自然だ。
「じゃあ神谷、1番後ろの空いてる席な」
そう言われて神谷司は席を確認してからそこに向かって歩き始めた。
席と席の間を通り抜ける。
全員が、静かに彼に注目していた。
あたしの横も通り過ぎる。
そいつのお菓子みたいな甘い匂いが鼻を擽った。
そのままホームルームが始まったけど、あたしはどうも集中することができなかった。
恐らくそれは、あたしだけじゃない。
実質、週はじめの月曜日に突然現れた転入生のせいで、誰もが集中なんてすることができないとあたしは考える。