落雁
「お気持ち察します。俺は、ずっと見てましたから…、お嬢の強い意思、俺は知ってます」
だからそんなに、自分を責めないで下さい。
甚三が野太く低い声でそう言った。
あまりにも似合わなさすぎて笑いが溢れそうになったくらいだ。
「でもお嬢、女が務めるのに危険なのは変わりないんですよ…」
「知ってるよ、父さんがあたしを思って次期当主をたてたのも」
だけど、あんな男が京極を背負うなんて、納得できない。
京極の歴史も何も知らない奴に。
すると、また襖が開く音がした。
「神谷」
甚三がそう呟くのを聞いて、あたしはすぐに布団に戻った。
「お前ぇ、学校はどうした」
「弥刀ちゃん居ないし、教室に居ても疲れるだけだし、僕も体調不良って言ってきた」
「あのなぁ…」
甚三が渋い声を出す。
神谷の声なんて、今1番聞きたくない。
更に体を縮ませた。
「弥刀ちゃん、調子はどう?」
低くて柔らかい声がする。
「…出てって」
腫れた喉でなんとかそう紡いだ。
甚三が立ち上がって、そいつを追い出そうとする。