落雁
すると、神谷はいきなりあたしの布団を剥ぎ取った。

「?!」

突然明るくなった視界にびっくりした。
見上げると、仁王立ちであたしを見下ろしている、神谷司。

学ランの前を全開にして、くすりと笑った。

「浴衣で寝てる人はじめて見た」
「…浴衣じゃない、寝間着だ」


保温の術が無くなって、外部の冷気が身に凍みる。

「神谷、何やってんだ」

呆れたように甚三は神谷を捕まえようとした。


「わっ?!」

するとあたしは、すごい力で引っ張られ、気付くと上下感覚が無くなっていた。
神谷に、肩に担がれるようにして抱き上げられたのだ。

「神谷、お嬢は熱出してんだぞ」

甚三がドスのきいた声で神谷を唸る。
そんな状況でさえも、熱に侵された役に立たないあたしの脳味噌は理解できなかった。

「うん、ちょっとだけ」
「神谷…、」


反抗しようと思ったけど、腫れ上がった扁桃腺が痛すぎて、声が上手く出なかった。
そのままあたしは抱かれた状態で客間として利用している部屋で下ろされた。

今日初めて立ったから、あたしの足は自分の体重を支えきれなかった。

「熱が出たってのは、本当みたいなんだね」


変わらない笑顔で、しゃがみ込んでいるあたしを見下ろす神谷。
言い返す頭も、気力もない。体がぞくぞくする。

「こうでもしないと、ちゃんと話せないでしょ」

神谷があたしの目線に合わせてしゃがみ込んだ。


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