落雁

「離せ」
「ごめんごめん、つい」

そいつは笑って手を離した。
そして、至極真面目な顔してあたしの顔を覗きこむ。

「面白いね、ショックで熱出したの?」
「…おい、何だと」

かちんときた。
何でこんなにこいつは生意気なんだろう。あたしから、あたしの守ってきたものすべて奪っていったくせに。


「そんなにショックなの?そんなにこの家を守り続けたいの?」

馬鹿にしている様子はない。
本当に素直な質問をしているような感じだ。
だけど、頭に来るのは頭に来る。

「あんたに、何が分かるのよ。京極なんて名前も、初めて聞いたみたいなただの坊に」
「まぁ確かに、そんなに京極家を知っているわけじゃないけど」
「何であんたなわけ?」
「それは、辰巳さんにしかわからない」

濁された。なんだか、軽くあしらわれている感じがした。
それもまた、腹が立つ。

「何でこんな、ひょろい奴を選んだのかあたしには分かんない」

神谷は無言だった。
あたしは立ち上がる。
一瞬だけ視界が真っ暗になって、頭ががんがん痛くなる。
それもすぐに通り過ぎたから良かった。


「あたしはあんたが次期当主なんて認めない。あたしは負けないから。
あんたから、当主の座を奪ってやる」


神谷司は豆を喰らったような顔をしていた。
大きな目を更に見開いている。


それだけ言って、あたしは自分の部屋に戻った。
喋りすぎたのか、更に喉が痛くなっている。

早く寝て、明日には学校に行けるようにしよう。
やりたいこともいっぱいあるし。

あたしは何故か、気持ちがすっきりしていた。
ふと気付く。


そうか、あたしは奪えばいいんだ。
あの次期当主からあたしになるように、努力すればいいだけだ。
男に負けない、強い奴になればいいんだ。

さっきの宣戦布告で自分のしたかった事が分かった気がする。

気分が晴れやかになっていた。


< 32 / 259 >

この作品をシェア

pagetop