落雁


入ってきたのは麗しの神谷君だった。

「なにやってるの」

トレーニング室のベンチに座る神谷。

「何って…重量挙げ?」

ぐ、と重量を持ち上げる。
腕から吹き出る汗が顔に垂れた。

「あ?!」

すごい力で足首を掴まれ、一瞬の内に引き摺りだされる。
勢いで手が滑り、がしゃんと重量が1番低い高さの段階まで落ちた。

ひどい金属音が頭の中で木霊する。
重量挙げの台から半分はみ出たあたしの体を支えている神谷は、甘く微笑んだ。

無性に腹が立つ。

「…ばっかじゃないの」

神谷の首筋にも汗が滲んでいた。
こいつも真面目に練習するんだ、なんて思いながら。

「何が馬鹿なわけ?」

足を引く。だけどそいつは動かなかった。
寧ろ作用反作用の法則なんだろうか。上体が更に引き付けられた。


「あたしはあんたに怯むつもりも、負けるつもりも、下につくつもりもないから。と言うか、手も借りるつもりもないから」

体を起こす。
袖で頬に流れる汗を拭った。

神谷は可笑しそうに笑って、顔を歪める。
何も言わなかった。気色悪いな。

「そのままぶっ倒れて、あの男に運ばれようとしてるの?」
「あの男ぉ?」
「部長だよ」

ごっつのことか。全く理解できなかった。

「あいつ、君にべったりじゃん。君がそんなに頭が悪かったなんて、ちょっと残念」

かちんと来る。
空いてる反対側の脚で、あたしの脚を掴んでいる手を蹴った。
ぱ、と掴まれていた脚が自由になる。

「ごっつ?ごっつとは何もないし、あいつもふざけてるだけだ」


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