落雁



□ □ □



「弥刀ちゃん、おはよおー」


教室に入った途端、間延びした声が後ろから聞こえた。

「芽瑠、おはよう」


めると呼ばれた彼女は、あたしの後ろから顔をひょこりと出して、可愛らしい笑顔であたしの心を十分に癒した。

朝の闘いからのこの天使は、いい。
ベリーグッドだ。

彼女は西田芽瑠。
高校に入ってからの友達だ。

芽瑠はその名前の感じからして分かるように、可愛らしい。
ふわふわのショートカットに、小さい身長。

当然男子からもてるわけだが、彼女は天然だ。

美少女に天然というパーフェクト要素の芽瑠はヒロインに向きすぎている。


「うふふ、今日も凛々しいねぇー、みとちゃんは」

柔らかな笑顔が疲れたからだに沁みわたる。

学校では普通に過ごしているし、目立ちすぎず、地味すぎずのごく普通な境界線で生きている。
友達も少なすぎず、多すぎず。クラスで1番仲が良いのは芽瑠だ。

芽瑠はあたしの髪を触る。

「みとちゃん、髪さらさら」
「ぎっすぎすだよ」
「なにその表現ー。うち、こんな伸ばせないな」

そう言われて自分の髪を見る。
気付いた頃には髪を伸ばしていた。小さい時に髪を伸ばして、そこからちょこちょこ切っていっているというような適当感覚だ。

現在その長さは胸ちょっと下辺り。ふわふわショートカットが似合う芽瑠よりは長い。

「うち、小さい頃からショート極めてたから髪伸ばそうとしてもどうしても我慢できないんだよねぇ」
「逆にあたしはもったいなくて切れない」
「やっぱりはじめは大事だよねぇ」


そんな他愛もない話をしながら、HRを知らせるチャイムが鳴った。

あたしは自分の席に行く芽瑠の後姿を眺めながら、机に乗せたままだった教科書達を机に押し込んだ。


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