落雁
「面白いよね、賀奈子さん」
「母さん?何か話したの?あの人、灰汁が強いけど」
「うん、ほんと。若い頃、お水やってたんでしょう?」
「そうなんだよねー、そのせいかかなり夜型」
「弥刀ちゃんにはあんまり似てないかな」
「よく言われる」
母さんは自由で、気ままな人だから。
だけど優しくて、何よりもあたしの事を1番に考えてくれている。と思う。
「この家、やくざがいっぱいいるのに、割りと住みやすい」
「京極に悪い輩は居ないよ。みんな優しい」
髪に櫛を通す。
まだ熱が残っているみたいだ。
そうか、こいつは1人暮らしか。
どんな事情があるかは知らないが、あの家が住みやすい、帰りたいとは思えるような部屋ではないと言うのは確かだ。
そう考えると、このへらへら笑っている男に同情してしまう。
「1人暮らし寂しいなら、うちに住めばいいじゃん。この家広いし、父さんと母さんとあたし以外にも、仕事の奴が住み込んでたりするし。1人も2人も変わらない」
そう言うと、司は目を丸くした。
何だ、この驚きよう。
「すごいね、辰巳さんとほぼ同じこと言ってる」
「えっまじで?!やっぱ今の取り消し。屈辱だ」
そう言うと、司は笑い始めた。
あ、と思い出す。そしてあたしは付け足した。
「あたしの部屋は立ち入り禁止」
「えー、つまんないじゃん。僕喋る人居ないし」
「いつも暇してる下っ端が居る。そっちの方が楽しいんじゃない」
司は困ったように苦笑した。
ってあたしは、何当たり前のようにこいつと喋っているんだ。
今あたしが聞きたいのは、そう言う事じゃない。
こいつの実力を知りたいんだ。