落雁



□ □ □



今朝は珍しく、登校中のあたしの横に司は居ない。

8時という登校ラッシュの時間帯、あたしは早足で、電車から降りたばかりの、まだ寒さに慣れていない生徒をどんどん追い抜いていく。
歩いている大半がマフラーに顔を埋めて、寒そうに足を進めている。

特に男子が冬がきついと言うのが理解できない。
女子みたいにスカートじゃないし、明らかに防寒対策はいいはずなのに、人一倍さむいさむい言うからどうしても腹が立ってしまう。

長く歩いていれば慣れるものの、この寒空にスカートは酷だと思う。


昨日、自分の家に戻ったっきり京極家に戻らなかった司。

まるであいつがうちに居るのが当たり前になっているのが、慣れの怖いところだ。

あたしもだんだんおかしくなっていっているのかもしれない。
ライバルを認めてしまうなんて。

そうだ、今日こそはあいつの真意と実力を確かめてやろう。

あたしが拳を握り締めた所だった。


「きゃあっ」


悲鳴が遠くの方で聞こえた。
声は擦れていたし、元気もなかったから、老人だろう。

あたしは野次馬精神か知らないが反射的に、声の聞こえたほうに走った。

なにが起こったんだろう。


< 92 / 259 >

この作品をシェア

pagetop