落雁
少し走ったところに、悲鳴の原因はあった。
校門の近くの交差点で、厚着してもこもこしているおばあちゃんは倒れていた。
一瞬、何が起こっているのか分からなくなって混乱したけど、あたしの体は自然と動いていた。
あたしは急いでおばあちゃんを起こす。
「おばあちゃん、どうしたの?!」
切羽詰った声だったかもしれない。
おばあちゃんはあたしの形相に驚いていた。
おばあちゃんの口からは、あぁあぁとか、声にならない声しか出ていない。
「おばあちゃん、落ち着いて」
この通りは人が少なくて、薄暗い。近くにある高い建物のおかげで、日に当たっているところも少ないくらいだ。
おばあちゃんはやっと声を出した。
「今、…たったいま、お金の入ったバッグを奪われて…」
は、とあたしは息を呑んだ。
まさかこれは、強盗…じゃなくて引ったくりか。
「そいつはどんなやつだった?!」
「自転車に乗っていて…黒っぽい服を着ていたけど、普通の感じな…」
「どっちに行った?!」
おばあちゃんは自分で体を支えながら、あたしの右側の道を指差した。
すりむいたのか、指先が赤い色に滲んでいる。
あたしはおばあちゃんを置いて、全速力で走りだした。
黒っぽい服装。
目立たないからバイクじゃなくて、自転車を選んだんだな。
好都合だ。
追いかけてやる。