落雁
薄暗い通りを駆け抜けていく。
どこだ、どこだ。
まだ遠くには逃げていない筈だ。
あたしは一旦立ち止まって、辺りを見渡した。
そこで、遠くの方でチャイムが聞こえた。
うわ、まずい!学校始まっちゃった。
いやでも、今優先すべきことはおばあちゃんを襲った奴だ。
左右と前を確認して、振り返った。
大きな影があたしを一瞬で包んだ。
「っぐ」
鈍い音と、体の右半身の鋭い痛みと衝撃にあたしはそのまま吹っ飛んだ。
「堅気のジョシコーセーが顔出ししてんじゃねぇよ」
あたしが地面に倒れこむと、また影がかかる。
ずきんずきんと殴られたのか知らないが、右肩が痛んだ。
あたしはすぐに顔を上げた。
見ると、あたしの目の前で、“スナックあきら”と書かれたたておき看板を振り翳している、全身黒い男。
こいつか…!!!
いや、でもまずい。
これはあたしが殴られる感じじゃないのか。
「っ!!!」
男が振り下ろした落下地点は、あたしの顔。
すぐに体の向きを変える。
ガン、とあたしの顔の横に重そうな鉄の塊が沈み込む。
看板のネジが顔に乗った。
「あ、っぶなぁ」
どきどきどきと心臓が高鳴った。