落雁
まさか、探すまでも無く犯人があたしを襲うとは。
ここでずらかりたいが、あたしがしつこく嗅ぎ付けるから、邪魔だったんだ。
「見つけたぁあああああああああ!!!」
もう1度大きな看板を振り翳してくる男を見て、あたしはすぐに立ち上がった。
ガシャンと金属が叩き付けられた音がする。
「お嬢さん、こういう事には顔だしちゃいけないぜ」
頬に気持ち悪い感触が伝って、手の甲で拭ってみる。
赤黒い血だった。
マスクとニット帽で、顔は見えない。
表情も窺えない。
もしかしたら、薬を使っている奴なのかもしれない。
そうしたら結構まずいかもしれない。
いや、構うもんか。
距離を置いたあたしに、そいつは距離をつめてくる。
どんどん近付くその距離に、あたしの胸は高鳴った。
ぶん、と男が“スナックあきら”を横に振った。
あたしの腹ぎりぎりでそれは掠めていく。
よし、いまだ。
振り翳したせいで近くなった腕だけを蹴り上げる。
がしゃんと一瞬で“スナックあきら”は地面に落ちる。
男の視線が看板に移るのをあたしは見た。
そいつの手をつかんで、あたしは使い物になる左足を思いっきり振り上げた。
左足のくるぶし…の内側の方。
サッカーで言えばインサイドであろうか。
男の右頬に、クリーンヒットした。