落雁




「何か突起物にでも当たったんですかね。額がちょっと切れてます。目から上はちょっと切れるとすごい血が出るんで、これは大丈夫です。ただ、右肩打撲してますんで、これからは安静にしてください。絶対安静ですよ」

物腰が柔らかそうな医者に、念を押される。

後ろで立っている新人警察官(予想)は安心したような顔になった。


額の手当てをしてもらって、右肩を中心にあたしの体は湿布だらけになる。
年頃の女の子が、こんな湿布臭いなんて…。

あたしは診察が終わって、待ち受け室のソファに座り込んだ。
あたしより先に診察が終わったおばあちゃんと男は、なにやら警察の人と喋っている。
男のほうは会計もせずに、警察官に連れられてしまった。

「お嬢ちゃん、大丈夫だった?」
「うん、全然平気。こうみえて、あたし頑丈なんだ!」

そう言ってみるものの、おばあちゃんの顔は明るくならない。
おばあちゃんは膝と肘などをすりむいただけで済んだらしく、大事にはいたらなかった。

1番酷かったのは犯人だったらしい。
足首を捻挫、腰を痛めてところどころ打撲。
あたしに襲い掛かったんだ。当然の報いだ。

新人警察官(予想)があたしに近付いてきた。


彼の話によると、あたしが下敷きにしたあの犯人は、連続オレオレ詐欺師だったらしい。

おばあちゃんに、息子を名乗る男から、事故を起こしてしまったので至急金がいる、との電話がかかってきたらしい。
いかにもオレオレ詐欺らしい手口だ。

人通りの少ない所で会って金を引き取る、とかどうとか言って、引ったくりを装いその金を奪うんだ。

そうして何人ものお年寄りを貶めて、楽して生活しようって魂胆だ。
警察も引ったくり犯の目撃情報を元に追っていたらしい。


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