落雁
「いやぁ、大手柄だよ。感謝状ものだね。女の子なのにあの勇敢な立ち振舞い、惚れ惚れしちゃうね。部活は何をやっているの??」
「ボクシングと、剣道と柔道をやっています」
「…そう。それは…強そうだね」
男が乗っていた自転車はどこかで盗んできたやつらしく、そのかごには150万円が入ったおばあちゃんのバッグがちゃんとあったらしい。
おばあちゃんの150万円も無事だし、大怪我をした人も居ないので一件落着かと思えば、ちょっと年寄りの警察官に無茶をするなと散々怒られた。
2度とこんな真似をするなとまで言われたので、「じゃあとっとと犯人捕まえろよ」とか言ってしまい、また説教は長くなってしまった。
病院代は後から払いに行く事になって、処方してもらった薬と湿布を取りに行く。
「お嬢ちゃん」
後ろで声がしたので、振り返ってみるとおばあちゃんが立っていた。
おばあちゃんは擦りむいただけなので処方された薬は無く、このままパトカーで送ってもらうらしい。
「今日は迷惑をかけて、本当にごめんねぇ。申し訳無いよ。せめて、名前を教えてくれないかね…?」
「全然いいよ!困っている人が居たら、助けるのが常識でしょ?たまたま早く駆け付けたのがあたしなだけだよ。あたしは京極弥刀。」
言った瞬間、おばあちゃんの目は見開かれた。
あ、まずかったかも。もしかして、うちの近所に住んでいるんじゃ…
「…そうかね、そうかね…。みぃんな悪く言うけど、おばあちゃんは知っとるよ。京極さんに悪い人なんて居ないもんねぇ」
おばあちゃんは涙ながらにそう言った。
「おばあちゃん、京極を知ってるんでしょ…??」
「知ってるもなにも、あたしは弥刀ちゃんの家の事を軽蔑なんてしないよ。この町の、頼れるリーダーさ」
おばあちゃんは笑顔でそう言った。
聞けば、昔京極の者に何回かお世話になった事があったらしい。
近所に住んでいれば、うちのもんに会う機会も多いだろうし、何より京極家の事を軽蔑しなかったのが嬉しかった。
ますます京極家が好きになってきた。
理不尽な争いはしない。
困っている人には手を差し伸べる事ができる、そんな優しいやくざが江戸から渡り継がれている、京極家。
あたしは上機嫌で、薬局に入っていった。
因みに、薬局の中で介した会話で知ったのだが、隣に居る新人警察官(予想)は本当に新人警察官だったらしい。