今昔狐物語
「その通りですが、私の名前は“旦那”ではありません。水真馳と呼んで下さい」
「み、まち…?」
恐る恐る呼んでみると、白狐が嬉しそうに尻尾を振った。
(本当に、狐なんだ…)
畳の上に上品に座る獣をしげしげと眺めながら、蛍はごく当たり前の質問をした。
「わっちに何か用でありんすか?」
すると――。
「そうですね。まず、その郭(クルワ)言葉をやめて下さい。似合いませんから」
「は!?」
なぜか、かなりとんちんかんな答えが返ってきた。
(似合う似合わないの問題じゃないでしょう!?)
遊女である限り、郭言葉は必須。
男性に美しい夢を見せるには、ありんす言葉でなまりを隠さなければならない。
(この言葉使いに慣れるのだって苦労があったのに、人の気も知らないで…!)