今昔狐物語



 それからというもの、水真馳は夜の営業時間ではなく、昼間の休憩時に蛍のもとを訪れるようになった。

それも蛍が一人になった時を見計らって突然、姿を現す。

そんなことが数日続いた。


「こんにちは」

「水真馳、また来たの?」

くだけた口調で迎えないと、このお狐はぶすくれる。

それを理解したから、蛍は敬語や郭言葉を諦めた。

「どうせなら夜見世に来ればいいのに」

「お客として来たところで、貴女を指名できないなら来る意味がありません。だから今がいいんですよ」

客をとらない振袖新造は見世に出ない。

見世とは、指名してもらうために遊女が並んでお客待つ、往来に面した格子つきの部屋のことだ。

「それに、お勤めをしていない貴女とゆっくり話せますし」

狐の姿から人へと変化(ヘンゲ)した水真馳が微笑む。


 
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