今昔狐物語



 さて、床入りの時刻になり、夕霧と馴染み客が二人きりとなった。

役目を終えて退散する蛍や他の遊女達。

途中から箏(ソウ)を奏でていた蛍は楽器を運びながら廊下を歩いていた。


(えっと…確か、この部屋だよね)


楽器を片付けるために楽器置き場となっている小さな部屋へ入る。

「よい、しょ」

襖を開けて誰もいないその部屋に箏を置いた時だった。


突然、後ろからガバッと口を塞がれた。

「ん!?」

誰かの手が唇を押さえ付ける。


(誰!?)


水真馳ではない。

水真馳はこんな荒々しく押さえ込んだりしない。

「んんっ!」

逃れようと必死に身体を動かしたが、虚しかった。

がらっと襖が閉められる。

蛍は閉ざされた暗がりで、後ろから強く抱き着かれた。


「へへ…やっと二人きりになれたぁ」


知らない男性の声。

冷や汗が流れる。


「あんたのこと、ずっと見てたんだぜ?まだ客とらねぇってんで、我慢してたけど…限界なんだよなぁ」


 
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