今昔狐物語
「蛍殿!?どうしましたか!?どこか痛むとか…」
「違、うの。違う…」
嬉しかった。
本当に水真馳が来てくれた。
嬉しかった…。
(嗚呼、そっか…私…)
――彼のことが好きなんだ…
他の男に唇を許したくないほどに、水真馳との一瞬を大事にしてしまった自分に気づき、蛍は泣きながら微笑んだ。
「ねえ、水真馳」
「はい」
「………ありがとう。助けてくれて」
好きだと言ってしまいそうになる想いを、ぐっと押さえ込む。
「いえ。蛍殿のためなら、これくらい」
「…水真馳、お願いがあるんだけど」
「何でしょう?」
「蛍って呼んで。さっきみたいに」
この「お願い」に水真馳は驚いた表情をして、頭に生えた獣耳をポッと赤くさせた。
男を引っ捕らえた時の堂々とした態度はどこへやら、恥ずかしそうに口を動かす。
「ほ…蛍」
小さな声だった。
けれど、蛍にとってはそれで十分で。
「ん。ありがとう水真馳」
蛍は純粋な笑顔の裏に、淡い恋心をそっと隠した。