今昔狐物語

「姐さん…私…」

渋るような声を出す蛍を見て、夕霧は元気づけるように言った。

「大丈夫。花魁道中はうちと一緒さ。しゃんと前を向いて堂々としていれば怖くねぇ」

「はい…」

納得したのか、していないのか、よくわからない返事を聞き流し、夕霧は続けた。

「それと…突き出し後の水揚げなんだけど…」

水揚げ。

この単語に蛍はビクリと身体を震わせた。

水揚げとは、ようするに初体験のこと。

「お相手は、あんたにも任せたことがある商家の旦那にしたよ」


(その人って、初めて水真馳と出会った時にお相手してた…!?)


あの助平で中年で、顔の良くない男。

蛍は愕然とした。


(あの人と…)


振袖新造の初体験の相手は、姐女郎の馴染み客であることが多い。

わかってはいたが、まさかあの旦那になるとは思いもしなかった。


 
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