今昔狐物語


(水真馳がいい…)


あの客が嫌というよりも、水真馳でなければ嫌という思いの方が強かった。

一気に沈んだ表情になった妹女郎に夕霧が苦笑する。

「そんな顔しなさんな。確かにあの人は中年だし、助平だし、顔良くないし、野暮なこと言うけどさ…」


(やっぱり姐さんも思ってたんだ…)


蛍が心の中で苦笑いしていると、夕霧はこう続けた。


「でもね、あの人なんだよ。うちの一番好きな人」

「え………えぇ!?」

意外過ぎて反応が遅れた。

「姐さん、本心なの!?」

「そりゃもう。身請けされるなら、うちはあの人がいい」

真剣に語る夕霧に、開いた口が塞がらない。

「どうして、そんなに…あの人が…?」

もっと若くて容姿のいい馴染みもいる。

なのに、なぜよりによってあの中年男なのか。


 
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