今昔狐物語
すると夕霧は信じられないことを語り始めた。
「あの人はね、何回も来てくれてるけど…うちのことを抱いたのは、まだたった一回だけなのさ」
「え!?あの助平が!?」
「ふふ、蛍も言うなぁ。まあ、みんなそれに騙されてるのさ。本当のあの人は、とっても心根の綺麗な人だよ」
夕霧は手ですくったお湯を肩にかけながら言った。
「初会、裏を経て、初めてあの人がうちを抱けるお許しが出たあの夜…。いざ二人で床入りした時、あの人がなんて言ったと思う?」
首を傾げる蛍に、彼女は綺麗に微笑んだ。
「“抱けません”て言ったのさ」
「抱け、ない?」
「そう。初めはこの妓楼の花魁を目の前にして失礼な男だと思ったよ。けどね、よくよく話を聞いてみたら……ほんと…くだらないよ…」
くだらないと言った夕霧の声は微かに震えており、どこか自嘲めいていた。
――貴女のような、美人で教養もあって品も備えた気高い人を…こんな俺が汚すなんてしちゃいけねぇ…。傍にいられるだけで、見つめられるだけでいいんです。それだけで、俺は幸せだぁ…
「あの馬鹿はそう言ったのさ」