今昔狐物語

予想もしなかった答えに蛍は目を見張った。

「…衝撃だったね。そんなことを言う客は初めてで…この花魁夕霧がどうすればいいのか一瞬、戸惑っちまった」

「それで、姐さんはどうしたの?」

「言ってやったさ。――わっちは聖人君子じゃありんせん。一人の女でありんす。主様と同じ……一人の人間でありんす、てね」


だから、貴方が抱いたって汚れやしない。

そう優しく囁いたにもかかわらず、その夜、彼が夕霧を抱くことはなかった。


「その後も何回か来てくれたけど、全然抱いてくれなくてさ。いやもう、たった一度抱かせるのに苦労したこと…」

色々と思い出したのか、深い溜息を吐き出す。

「蛍、あの人は下手だからうちを抱かなかったんじゃないよ。わかるね」

「はい…」

「あの人はうちら女郎を女として…一人の人間として見てくれる。だから好きさ。うちを抱いた時、感極まって泣いてくれた客は、後にも先にも…あの人だけさ」

そんな相手だからこそ、蛍の初体験を任せることにした。

「下手な馴染みにあんたを頼むよりは…あの人なら、優しくしてくれる。うちが信頼してるから、あんたを任せることに決めたんだ」


 
< 150 / 277 >

この作品をシェア

pagetop