今昔狐物語
予想もしなかった答えに蛍は目を見張った。
「…衝撃だったね。そんなことを言う客は初めてで…この花魁夕霧がどうすればいいのか一瞬、戸惑っちまった」
「それで、姐さんはどうしたの?」
「言ってやったさ。――わっちは聖人君子じゃありんせん。一人の女でありんす。主様と同じ……一人の人間でありんす、てね」
だから、貴方が抱いたって汚れやしない。
そう優しく囁いたにもかかわらず、その夜、彼が夕霧を抱くことはなかった。
「その後も何回か来てくれたけど、全然抱いてくれなくてさ。いやもう、たった一度抱かせるのに苦労したこと…」
色々と思い出したのか、深い溜息を吐き出す。
「蛍、あの人は下手だからうちを抱かなかったんじゃないよ。わかるね」
「はい…」
「あの人はうちら女郎を女として…一人の人間として見てくれる。だから好きさ。うちを抱いた時、感極まって泣いてくれた客は、後にも先にも…あの人だけさ」
そんな相手だからこそ、蛍の初体験を任せることにした。
「下手な馴染みにあんたを頼むよりは…あの人なら、優しくしてくれる。うちが信頼してるから、あんたを任せることに決めたんだ」