今昔狐物語
それから一週間後。
遊女達が髪結いを終えた昼時の時刻。
「聞いた?向かいの見世の子、指切りしたんだってさぁ」
「えっ!?嘘ぉ!」
「ほんとほんと。自分の小指切り落として、いい人にくれてやったんだって!」
大部屋にいる遊女達は暇さえあれば色々な噂話をしている。
今日は向かいの妓楼で働く遊女の話らしい。
「指切りねぇ…。切った子はみんな失神するって聞いたよ。おお怖い!」
遊女が、本当に愛する相手に自分の小指を切って送る行為――指切り。
自分の小指を差し出して変わらぬ愛を誓う。
「馬鹿ね。切ったとか言って、たいていの子が偽物あげてんだよ。死体から指とってきた子の話、聞かせてあげようか?」
仲間の話を聞きつつ、蛍は時間を気にしていた。
(もうすぐ水真馳が来る時刻だ)
水真馳が現れやすいよう、その時間帯に一人になれる場所を探すのが、最近の彼女の日課となっていた。
(場所を移そう…)
遊女の色恋沙汰で盛り上がる大部屋を、蛍はそっと後にした。