今昔狐物語

「……ううん。何でもない。何でも、ないの…」

寂しそうに首を振った蛍。

彼女の言わんとするところがわからない。

水真馳は人の形をとった。

一瞬で蛍の背を追い越す。

「何ですか。気になります。教えて下さい」

優しい声音を響かせながら、彼は蛍の背中を抱きしめた。


(言ったら水真馳は、どんな反応をするかな…?)


蛍が一人前の遊女になることを喜ぶだろうか。

それとも、憐れんでくれるだろうか。


(知りたい…)



――水真馳は、私のことをどう思ってくれるの…?



少しの沈黙の後、蛍はおもむろに話し出した。

「突き出しをやるってことは……私が正式に、女郎になるってことなの」

蛍を抱きしめる水真馳の腕が、僅かに反応した。

「お客をとることが許されるのよ。見世に出て、旦那の指名を受けて、それから――」


「見ず知らずの男と、床を共にする…ということですか?」


凍てつくような低音だった。

反射的にビクリと震えた自分の身体に驚きつつ、水真馳の方へ振り返る。


 
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