今昔狐物語
鈍く光る金色の瞳と視線が交わった。
「貴女は、それで良いのですか?」
微かに熱を孕んだような彼の瞳に囚われて、顔を反らすことができない。
「良いもなにも…私はそのために、ここにいるのよ…」
親に売られてここへきた。
だから、年季奉公で借金を返さなければならない。
売り物は自分の身体のみ。
良いも悪いもない。
決められた運命。
しかし、水真馳は蛍の両肩を掴んで言う。
「違います。一言、私に“ここから連れ去って”と請えばいいのです。そうすれば私は、貴女をこの苦界から解き放してあげますよ」
一瞬、時が止まった。
水真馳の顔を凝視したまま固まる蛍。
(水真馳なら……水真馳なら、本当に叶えてくれるかもしれない…)
ここを抜け出すこと。
望まない日はなかった。
(けど…)
不意に夕霧の顔が浮かんだ。
「…………わ、たし、は…」
先が続かない。
自分でもどうしたいのかハッキリと答えが出ないでいると、水真馳が溜息をついた。
「………そうですか。わかりました…」
まだ何も言っていない蛍に対し、納得したような言葉を漏らす。
「愚かな問いでしたね」
「え…?」
即答しない蛍に痺れを切らしたのか、水真馳は彼女を放し、素早く窓から出て行った。