今昔狐物語
七日間の道中が終わり、いよいよ水揚げという日の午前中。
(水真馳…怒ったのかな)
今日も彼が来ない。
蛍が突き出しの説明をした一週間前のあの日から、水真馳の訪れがパタリとなくなった。
(私が、ちゃんと答えられなかったから……呆れられたのかな…)
暗い方向にばかり思考が向かい、泣きたくなってくる。
「水真馳…」
――会いたいよ…
好きな相手に会いたい。
たとえ彼が自分のことを何とも思っていなくても、こっそりと顔を見に行くことくらい普通の町娘ならできるだろう。
しかし、それすらもできない。
それが吉原。
遊女の運命。
「水揚げの前に、一目でいいから会いたかったな…」
呟かれた願いは儚い。
溜息を吐き出しながら窓の外をぼんやりと眺める。
ふと、向かいの妓楼が視界に入った。
――聞いた?向かいの見世の子、指切りしたんだってさぁ
頭の中で再生された仲間の噂話。
――自分の小指切り落として、いい人にくれてやったんだって!
(指切り、か…)
蛍は考え込むように視線を落とした。