今昔狐物語

「えっ…!」

聞き間違えかと思った。

しかし、彼はこう続ける。

「借金を返し終えた時が、貴女の独身生活の終焉ですよ。いいですね?」

十七で客をとり始める遊女は、それからおよそ十年間が奉公の期間だ。

早くて二十七で吉原から出られるようになる。

「ずっと…待ってて、くれるの…?」

「ええ。待ちますよ。というより、お客として上がります。貴女の一番の馴染みになりますよ」

痛みでこぼれた蛍の涙を指で拭ってやりながら、素敵な笑顔で馴染み宣言した水真馳。

「うん…。まっ…てる」

また、泣きそうになった。

それを堪え、のろのろと起き上がりギュッと水真馳の胸に抱き着く。

その時だった。


「蛍~?どこだい?」

廊下で夕霧の声がした。


「あ、ね…さんが…」

呼ばれた。

もう行かなくては。

名残惜しげに水真馳から離れる。

すると、水真馳が彼女の左手を掴んで引き止めた。


 
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