今昔狐物語
鞠紗の考えを否定する出来事が起こったのは、次の日の午前中だった。
鞠紗が井戸水を汲みに家の裏手に回った時。
「鞠紗」
よく知る声が彼女の背中にかかった。
(この声、まさか!?)
バッと振り向いた鞠紗の目に映ったのは、一人佇む玖羅加の姿だった。
「玖、羅加…?」
「鞠紗、会いに来たよ」
そう言って屈託のない笑みを浮かべ近づいてくる青年。
見慣れた笑顔。
見慣れた仕種。
聞き慣れた口調。
完全な玖羅加が目の前にいた。
「え…嘘…」
笑顔の玖羅加を見つめながら、鞠紗は夫のことを考えた。
(今、しゅーちゃんはどこにいるんだっけ!?確か――)
すると不意に、表の方からこちらに走ってくる足音が聞こえた。
「鞠紗!水汲みまだ終わらないのか?」
「っ!?」
鞠紗は愕然とした。
やって来たのは夫、修平だった。