今昔狐物語



「にん、しん…?妊娠!?」

「そうよ」

喜んでほしくていち早く夫に妊娠を告げた鞠紗。

しかし、食事の席でくつろぎながら少量の酒を飲んでいた彼は、なぜか顔色をサーッと青くした。

「しゅーちゃん?どうしたの?」

夫の反応が想像と違い、訝しむ。

彼は黙ったまま鞠紗の腹をジッと見つめていたかと思うと、急に立ち上がった。

そのまま無言で外へ出ていく。

「しゅーちゃん!?どこ行くの!?」

慌てて後を追う鞠紗だが、玄関口で彼の低い声に止められた。


「すまない……一人にさせてくれ」


鞠紗の足が止まる。

止まるしかなかった。

踏み込めない「なにか」を、夫に感じた。


「……わかった」


(なんでっ!?なんで喜んでくれないの?初めての、子供なのに…。嬉しいよって、言ってくれると…思ってたのに)



――すまない……一人にさせてくれ




低く冷たい夫の声。

わけがわからなかった。


わけがわからぬまま、およそ半年後、鞠紗は出産日を迎えることとなる。


 
< 190 / 277 >

この作品をシェア

pagetop