今昔狐物語
「にん、しん…?妊娠!?」
「そうよ」
喜んでほしくていち早く夫に妊娠を告げた鞠紗。
しかし、食事の席でくつろぎながら少量の酒を飲んでいた彼は、なぜか顔色をサーッと青くした。
「しゅーちゃん?どうしたの?」
夫の反応が想像と違い、訝しむ。
彼は黙ったまま鞠紗の腹をジッと見つめていたかと思うと、急に立ち上がった。
そのまま無言で外へ出ていく。
「しゅーちゃん!?どこ行くの!?」
慌てて後を追う鞠紗だが、玄関口で彼の低い声に止められた。
「すまない……一人にさせてくれ」
鞠紗の足が止まる。
止まるしかなかった。
踏み込めない「なにか」を、夫に感じた。
「……わかった」
(なんでっ!?なんで喜んでくれないの?初めての、子供なのに…。嬉しいよって、言ってくれると…思ってたのに)
――すまない……一人にさせてくれ
低く冷たい夫の声。
わけがわからなかった。
わけがわからぬまま、およそ半年後、鞠紗は出産日を迎えることとなる。