あなたの心理テスト(ホラー)
 ―――――何だ…?


 見てはいけない、取ってはいけない、触れてはいけない、読んではいけない。


『いけない』注意報が努の体から発せられる。


―――――本能が駄目だと言っている。自分自身が駄目だと言っている。


 もちろん、努自身、その信号には気づいていた。


 取るな、寄るな、触るな、駄目だ。来るな。行くな。駄目だ。駄目だ。駄目だ。


信号は黄色から赤へと変わる。


 それと同時に努の額に脂汗が浮かぶ。


 エアコンはきいている。今いる本屋の奥までも。


 なのに、暑い。暑い、暑くてたまらない。


―――――渡ってはいけない。踏み出してはいけない。でも、でも…!


 努は闘っていた。興味、本能。二体が対立する。


―――――読みたい。この本を。どうしても。何としてでも。


   1ページだけ。始まり方を見るだけ。どうせまた期待ハズレだ。


   大丈夫。たかが本だ。大丈夫。大丈夫。絶対。


「…!!」


 興味が、勝ってしまった。


 努は恐怖を振り払うように、本に向かって飛び跳ねた。


 何しろ努に身長より高い本棚の、一番高い所にある本だ。


飛び跳ねないで、ほかにどう取る。


店員を呼んでくるのも面倒だし、という理由をつけ、努は自分で取ることにした。


きゅ きゅ きゅ


 努は跳ぶ。本を目指して。


「…くそ…っ」


―――――あと数センチで届きそうなのに。


 努の目にはあの本しか映っていない。もはや信号など、作動していない。


 何度跳ぼうと、努の身長が伸びるわけでもなければ、本棚が低くなるわけでもない。


結果は毎回同じ。届きそうで、届かない。


―――――くそおおおおおおおお!!


 努は心の中で叫ぶ。読みたいのに読めない、というのは何とも辛いことだろう。


それでも努は諦めない。


きゅ きゅ きゅ


 スニーカーの音を響かせながら、ただ跳ぶだけ。
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