恋愛メンテナンス
「…本当に、すまん」

そうやって、弱気で私みたいな女に謝る姿も見たくないのに…。

強気で毒のあるあんたに、私は意地悪に可愛がって貰いたいのに。

本気で、仕事の事で、あぁいう言い方をされたら。

いくらなんでも、やる気も無くすよ。

「頑張ろうとしてたのに!バカッ!」

私は、話の途中なのに駆け出して帰って行った。

駆け出さなきゃ、辛いもん…。

試用期間は3カ月。

恋人試用期間も3カ月なのか。

だいたい、いつも3カ月目で大喧嘩しちゃう。

あきらめるならば、今のうち。

輝に嫌われるならば、今のうち。

別れるなら、今のうち…か。

数日して。

最近、輝は営業所と本社の行ききが多くなり、めったに顔を合わさなくなった。

私はというと、いつもの近所の現場。

いつもの男の子たちか、オバチャンたちのお手伝いをする。

「所長~っ、美空ちゃんパートタイマーにしてあげたらどうです?」

「若い子辞められたら、絶対痛手ですよぉ?」

私の様子がおかしいと悟った事務員のオバチャンも、所長さんに言い放っていた。

有り難いなぁ、みなさん。

ここの営業所の人達は、どうしてこうも纏まり合って、温かいんだろう。

そこが、辞めないで来られる唯一の救いかなぁ。

涙が滲んで鼻をすすっていたら、

「美空さん?」

所長が私を側へと呼ぶ。

「はい」

「美空さん、永田くんがあなたを短時間アルバイトから、長時間パートタイマーにしないのには、どうやら彼の中では、いささか気難しく、大きな問題のようですよ?」

「………」

所長は優しく言った。

「どうしてなのか、具体的な事は分かりませんよ?彼も胸の内の事は、一切誰にも語りませんからね」

「…はい…」

「彼の上司として、僕から美空さんに伝えられる事があるとしたなら。永田くんは何か無くして、あぁいう言葉は言いません。必ず抱える物事が有ってこその事」

「…はい…」

「彼はね、会社からとても重要な人材だと、認められている事も事実なんです。今は少し気が張っている時でも有りますから、許してあげて下さい。美空さんはいつもの笑顔で、このまま頑張って下さいね。頼みますよ?」

「はい…」

なんだ、じゃあ完璧アイツが悪いんじゃん。

結局、アイツの思い通りに行かない事に関しての、八つ当たりだった訳だ。

全面的にアイツが悪いって事に、納得出来た私は、妙に心の中で覆っていた雲が晴れて行った感じがした。

今まで通り頑張って、所長さんに早く長時間パートにして貰おっと。

輝なんて、所詮副所長だもんね。
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