紅茶遊戯
目を開けたまま。
柔らかな感触を短い間、ほんの二、三秒感じた。

唇が離れ、けれども尖らせでもすればまたすぐに届きそうな距離で。


「寛永さんの紅茶、おいしい」


小林は睫毛を伏せ、囁いた。

遅ればせながら、胸の中がざわざわ騒ぎ出す。
キス、した。私、小林と。

心の整理がつかない間に、体が仰け反ってゆく。
自分の意思じゃない。
前方からゆっくりとした躊躇うような、それでいて押し返す努力を阻むような力が、加わっているからだ。


「…っ…」


あっという間に私の背中は冷たい床の上。
視界には、天井をバックに小林の顔が見える。押し倒されたのだ。
油断したら吸い込まれるような、真っ黒の瞳で、小林が私を見下ろす。

その目が、さっき見た真剣な眼差しとはちょっと違っていて。
なにか感情的に堪えるみたいに細められ、それがどこか悲しげに魅惑的で。目が離せない。


「ごめんなさい、」


その表情が、視界から一気に消えた。
ぽすん、と胸の辺りに重みを感じる。


「やめた方がいい、よね?」


ただだらしなく腕を床に付けて伸ばし、寝かされている私とは対照的に小林は、私の二の腕の下に腕を回して抱き締めた。


「俺は、正直やめたくない、」


甘い声。
小林は私の胸に顔を埋め、鼻先を擦り付けるように首を振った。


「けど。」


力の入らない、私の左手を持ち上げると、手を握り、指先にキスをした。


「けど、やめとく」
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