紅茶遊戯
店内をうろうろして、“和紅茶”という文字が目に入った。一冊の専門書を手に取る。
アレンジのレシピとか、一緒に食べると合うデザートとか、流し読みして、ティーパックでの美味しい淹れ方のページに目が止まる。


『こんな俺でも役に立つかも、って』


私は休憩時間、紅茶を飲んでる。
いつも寝てしまう私が気付かないうちに、ストーブを点けてくれたのはきっと、小林だ。


『寛永さんの紅茶、おいしい』


心臓に小骨でも突き刺さったみたいにキン、として、私は紅茶の本を閉じた。

押し倒されたときの床の感触、私を見下ろす漆黒の瞳。動物が甘えるように胸に擦り付ける、鼻先。

もしかしたら私、あのまま。
小林に抱かれてたーー?


「…っ、」


自分の豊かすぎる想像力に、ハッとする。
本棚に本を戻す手が若干震えた。

だって。
私は抵抗しなかった。それでもいい、ってたぶん心のどこか奥まったところで、思ってしまった。あのギャップに富んだ人柄と、ストーブより温かいぬくもりに浸ってしまいそうだ、と。

小林は私のこと、どう思ってるんだろう。
今日はどんな顔で会えばいいの?


「ーーおはようございます、寛永さん」


職場に着き、店内に入るとすでに緒方さんがレジに入っていた。


「おはよう緒方さん、今日は早いね」
「だって今日矢田ちゃん、休みなんです」
「え?」


緒方さんが神妙な顔付きを私に向けた。
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