紅茶遊戯
聞かれたーー。

どうしよう、誤解なのに。

小林が開けたレジにはお客さんが列を作る。
一人でこんなに捌けるはずがないから、「いらっしゃいませ、お次に並びのお客様こちらにどうぞ」私もレジを開けた。
緒方さんは気まずそうに俯き加減で、入荷の作業に戻った。

今日はどんな顔して会えばいいの?って。
さっきまでそればっか思って年甲斐もなくドキドキしていた心臓は、今度は違う意味での速さに変わる。

傷付けた、よね。

接客しながらチラリと横目で隣を見るも、小林は淡々とレジを打っている。

お客さんの波がようやく収まった頃、今度は一人、返却の作業に向かった。
私は私で店内のディスプレイを作る仕事に回されて、結局小林と話すことが出来ないまま閉店時間を迎えた。

閉店作業を終え、バックヤードに入ってゆく小林の姿を見つけて私は、後を追い掛けた。


「こっ、」


背中に向かって呼び止めようとしたけれど、角を曲がったらもう小林の姿は無かった。
男子専用のロッカー室に行ったのだと思った。

更衣室に入る前にドアが開きっぱなしの休憩室を覗く。
ストーブは消えていたけど、まだ少し、暖かかった。


「あれ?寛永さん」


後ろから届いた声に、私は肩を跳ね上がらせる。


「お、緒方さん」
「お疲れ様でした。ストーブ、私さっき消しちゃいましたけど」


まだ休憩室使いますか?との質問に、私は急いで両手を振った。
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