紅茶遊戯
冬の星座で装飾された、真っ黒な夜空を見上げる。
空気が澄んで、まるでプラネタリウムのようにくっきりと見える。寒くて鼻が痛い。しばらく見上げていたら、目が乾いてきて、私は足を進めた。

小林は、どうやら既に帰ったようだ。
少しだけ従業員専用扉の外で待ち伏せのようなことをしてみたけど、来ない。


『寛永さんだって、昨日小林さんを辞めさせることに賛成してくれたじゃないですか』


出来れば今日のうちに、誤解を解きたかったんだけど。
明日は早めに出勤しよう。

そんなことを頭の中で考えながらひたすら歩いて、アパートに到着した。
バッグの中から鍵を取り出そうとしたときだった。


「ーー…」


アパートの、外壁に沿って植えられたコニファーの横に人影が見えることに、私は気付いた。
途端に足が止まる。
心臓の音が細かく速くなって、全身が警戒する。

ザッ、と、黒い影が動いた。コニファーのじゃない。


『なっ、なんだよ!覚えてろよ~!』


すぐに振り向いて走り去ろうか、ダッシュで部屋に入って鍵を閉めようか、色々な考えが頭をよぎるも体を上手く動かせない。
暗闇の中で目を凝らすことしか出来ない。

私の希望に反して、影が近付いて来る。


「怖がらせちゃいました?」


影からのその声に、一瞬心臓の速さが止み、それから体の力が抜けてゆくような感覚を覚える。


「これじゃああの客とやってること違わないよね、俺」


無言で立ちすくむ私に、小林はコートのポケットから紅茶のペットボトルを取り出して、こちらに差し出した。
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