紅茶遊戯
私がいつも休憩時間に飲んでいる、オレンジ色のキャップの紅茶。


「もう温くなっちゃったけど」


おずおずと、躊躇いがちに手を伸ばす。
受け取るとそれは、まだほんの人肌程度に、温かかった。

寒さでかじかんでしわしわになった私の手が、残りの温もりを奪う。
そういえば、私今コート着てない。更衣室に忘れてきたんだ。道理で寒いと思った。


「…ありがとう…」


寒がれば寒がるほど、温かいものに出会ったときの幸福感は大きい。

小林は当然のようによく見えないけど、眉をやや下降させ、どこか寂しげに笑ったように思えた。


「あのね、小林くん。さっき緒方さんと話してたのは、」
「わかってます、俺バイト辞めるってさっき店長に話してきました」


辞める…?


「わかってないわ!」


抑制の仕方を忘れてしまったように、自分でも驚くくらい大声になって、アパートの前の道を通過した自転車に乗った人が、訝しげにこちらを見て行った。


「ちょ、ちょっと中、入って」


え?などと戸惑って足をもたつかせる小林を余所に、私は腕を掴むと部屋に向かいずんずん足を進める。
鍵を開け、ドアを開けると玄関で足を止めた小林の背中を押し込むと表現出来るくらい強引に、中に入れた。


「今紅茶淹れるから。」


洗濯物とかもはや、どうでもよくなった。

小林が突っ立ってる間に、ペットボトルはカウンターに置き、部屋の電気とストーブを点けた。
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