紅茶遊戯
私たちは行為の後、しばらくは二人ストーブの前で寄り添い合った。
会話らしい会話は特に無く、腕枕っぽい体勢で余韻に浸ってみたりもしたが、小林は、すっと立ち上がり、こうなればもう伊達だってバレバレの眼鏡を掛け、放っていた服を着て、部屋から去った。

最後に私のおでこに、キスをした。
餞別代わりに。

以来三週間、カレンダーが替わっても会うことはなく。
それは当然だった。
小林はあの日をもってバイトを辞めたのだから。

ただの、機械好きの賢い学生に戻った。

私はといえば、ただの、レンタルショップの指導要員に戻り。
寒がり、ホットの紅茶を欲し。


『自分でも引くくらい俺、寛永さんのことが好きみたいだ』


あのぬくもりは夢かと疑い、ただ毎日をやり過ごしている。
そんな次第で。


「ーーて、寛永さん、聞いてますか!?」


隣からの、若干憤りを込められた問い掛けに、私は「ごめん…」素直に謝った。


「段々学生さんたちで混んできたみたいなんで私、休憩入らないでおきます、って言ったんです!」
「は、はいぃ…」


緒方さんの、大袈裟なくらいピンクを主張している頬はぷっくりとその色の風船みたいになる。
そうしながら彼女が、出入口付近を見たので、私も釣られてそうした。
確かに、見るからに若い、今日だからここに来るような学生さんたちで溢れ返っていた。

私は図らずも溜め息を漏らすと、レジに向かった。
< 33 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop