紅茶遊戯
男女の若い集団は、通路をうろうろしDVDを手に取ってはキャッキャと盛り上がりながら再び店内を徘徊している。
なかなかレジにはやって来ない。

その間、スーツ姿の、会社帰りと思われるお客さんがちらほら会計を済ませ、集団は単なる冷やかしだろうということで緒方さんを休憩に入れようとしたときだった。


「ーー」


レジカウンターの中からよく見える、新譜CDの棚にたむろしている、その集団の中に。

大袈裟なくらい大きな黒縁の眼鏡を外し、長くてもっさりしていた髪を顔が見えるようにきちんとセットして、私たちとお揃いの白いポロシャツに黒いエプロンじゃない、年相応のお洒落な恰好をした、あの彼の姿。


「あの子たち、近くの大学生ですかね?ああして友達とただ物色するだけで時間潰せるなんて、若いな一」


隣で、緒方さんが呟く。
その間にも、鼓動はまるでドラムロールの如く高鳴る。

だって。
見間違うはずなんてなかった。
緒方さんはたぶん、気付いてない。
小林の素顔を知ってるのは、私だけなのだ。


「この付近の大学生たち、結構レベル高くて有名らしいですよ!ここだけの話ですけど私、ここでバイトしてると友達とかに出会いがあるんじゃないかって羨ましがられたりとかして」


あははっと、自分の発言を笑い飛ばす緒方さんに対し、私は無言を貫いた。

暖かそうな紺色のピーコート。
それを着た人から目が、離せないでいるから。
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