紅茶遊戯
DVDを一枚、手にした小林は、レジに向かって歩いて来る。
一緒に入店した若い女の子が、直前で駆け寄って、小林が持つDVDを覗き込んでは笑顔で会話をしている。
私の隣では未だに緒方さんが、付近の大学生たちがいかに顔面偏差値が高いかを力説している。

けれど、そんなこと、どうだってよかった。
私は、これからどうやって呼吸しよう。
まずそれを一番に、考えなければならなくて。


「……っ…」


女の子と会話を終えた小林が、レジに向かって来る。
迷いなく、爪先と視線は一心に私を、貫いていて。


「これ、お願いします」


カウンターにDVDが一枚置かれた。


「…髪、切ったの?」


最初に口から出た言葉が、こんなんだった私は大バカだ。

でも小林は、動じた様子などなく「うん」と平坦に答え、緒方さんにぺこりと一礼する。
隣で緒方さんが、私と小林を見比べてぱちぱちと瞬きを繰り返す姿が視界の隅に入ったけれど、私はもう小林が差し出したDVDから視線を逸らせずにいた。


「こ、これ……」
「寛永さん、観ましたか?俺もこれ、観てみたくなって」


その一枚は、小林が初めて私の部屋に来たときに、私が社割で借りていた古い恋愛ものの映画だった。
真正面で、鼻先を指で擦る。
その仕草に私は、どうしようもなくなんだか心許ない気分になるのだ。


「今日来たのは、別に嫌がらせとかじゃないですよ。ただ、」


ただ、ぎこちない優しさと絡まるような愛撫の差が、恋しくて。
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