性別「少年」属性「乙女」
「陸さん……」


陸さんの温かい腕の中。

なんだか、とっても久しぶりな気がする。

陸さんの鼓動が、押し当てたボクの頬に伝わってきて。

ボクは安心して、泣きそうになった。


「なぁ、マコト。今、マコトにできること、いちばんやらなきゃいけないことは、元気になることだよ」

「でも、ボクのせいで、運転手のおじさんは」

「俺は、マコトの、そうやって相手のことを思いやれるところは、いいところだと思うけどさ」


陸さんの手が、繰り返し、ボクの頭を撫でてくれる。


「だけどさ、マコト。俺がもし、マコトを轢いたトラックの運転手だったとしたら。
そしたら、マコトを恨んだりはしない」


それはたぶん、陸さんだから。

ボクのことを大切にしてくれる、陸さんだからだよ。


「だってさ、もしマコトが有希子ちゃんを助けなかったら、有希子ちゃんが轢かれてた。もしかしたら、死んでたかもしれない。
そうしたら、もっと、彼は責められただろうし、幼い子供を轢き殺したっていうことは、親にとっても、運転手にとっても、取り返しのつかない苦しみだと思う。
きっと、むこうだって、それは分かっていると思うんだ。
そりゃあ、家族があるのに、仕事を辞めることは、大変なことには違いない。
でも、マコトは生きて、快方に向かっている。それは、向こうにとっても救いなんじゃないのかな」
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