幻想
珍しく恭一の目が見開かれた。「気づいていたのか?」
「実を言うと、その本は一ヶ月前に読破したの。現実を見せといて気づいたら別世界誘う構成は素晴らしいわね」
上から目線の批評は素人にありがちなことだが鈴音は気にしない。なぜなら、常にそうやって生きてきたからだ。人間という生き物は変えようと思っても、生き方をすぐ変えることなんてできないし、性格を変えるなんて尚更だ。性格に問題があるのならば、それを個性として生きていき、長所にまで昇華させていけばいい、それが彼女の持論だ。
「鈴音が本を?」
「いけない?」
「いや、むしろ新たな魅力を発見した。発見する前段階は好奇心が先行する。好奇心があってこそ発見を見いだす。言いたいことがわかるかな?」
恭一は鈴音を試すように不適に笑った。時折、意地悪な面があり、憎たらしい面が、彼にはある。それもまた魅力的なわけだが。
「好奇心が人を惹き付ける」
鈴音は言った。
「知りたいという欲求を人は抗うことができない。平凡な日常でもいい、と、ある人は言う。それでもある日、刺激が高揚し、好奇心赴くままに行動する。人は飽きやすい。ならば好奇心赴くままに行動し、選択していくのも人生がより有意義になる」
恭一は本を閉じた。パン、と音を響かせながら。その音の量は本の厚みを意味している。決して短い情報量を詰め込んだ本ではなく、濃い情報を含んだ活字媒体。
「その選択の先に失敗があっても?
鈴音は訊いた。
「選択の先に失敗があっても、また選択は訪れる。もし何かを成そうとする志があれば、必ず失敗の先に希望がある。遠回りしようとも。むしろ遠回りした方が、人としての厚みがでる。この本のように」
指先に本で恭一は本の背表紙をコン・コンと二度叩いた。その音は思考をクリアにし、リセットし、リスタートする響きを纏っていた。りょうもう号の走行音を置きざりにするような。
「それでも私は近道したい。遠回りは疲れるし、自分ではない」
鈴音は席から立ち上がり、パンツの締め付けは軽く直し座った。じっと座っているというのは非常に困難な作業を伴い、発刊を伴う。無意識的に人体は常に活動していることを実感させる。
「それもまた君らしい」
恭一は眩しい笑みを向けた。
「なぜ?りょうもう号なんかに?特急なんて使わなくても、あなたなら車で行くと思ったけど」
「終わらせるためだよ」
「実を言うと、その本は一ヶ月前に読破したの。現実を見せといて気づいたら別世界誘う構成は素晴らしいわね」
上から目線の批評は素人にありがちなことだが鈴音は気にしない。なぜなら、常にそうやって生きてきたからだ。人間という生き物は変えようと思っても、生き方をすぐ変えることなんてできないし、性格を変えるなんて尚更だ。性格に問題があるのならば、それを個性として生きていき、長所にまで昇華させていけばいい、それが彼女の持論だ。
「鈴音が本を?」
「いけない?」
「いや、むしろ新たな魅力を発見した。発見する前段階は好奇心が先行する。好奇心があってこそ発見を見いだす。言いたいことがわかるかな?」
恭一は鈴音を試すように不適に笑った。時折、意地悪な面があり、憎たらしい面が、彼にはある。それもまた魅力的なわけだが。
「好奇心が人を惹き付ける」
鈴音は言った。
「知りたいという欲求を人は抗うことができない。平凡な日常でもいい、と、ある人は言う。それでもある日、刺激が高揚し、好奇心赴くままに行動する。人は飽きやすい。ならば好奇心赴くままに行動し、選択していくのも人生がより有意義になる」
恭一は本を閉じた。パン、と音を響かせながら。その音の量は本の厚みを意味している。決して短い情報量を詰め込んだ本ではなく、濃い情報を含んだ活字媒体。
「その選択の先に失敗があっても?
鈴音は訊いた。
「選択の先に失敗があっても、また選択は訪れる。もし何かを成そうとする志があれば、必ず失敗の先に希望がある。遠回りしようとも。むしろ遠回りした方が、人としての厚みがでる。この本のように」
指先に本で恭一は本の背表紙をコン・コンと二度叩いた。その音は思考をクリアにし、リセットし、リスタートする響きを纏っていた。りょうもう号の走行音を置きざりにするような。
「それでも私は近道したい。遠回りは疲れるし、自分ではない」
鈴音は席から立ち上がり、パンツの締め付けは軽く直し座った。じっと座っているというのは非常に困難な作業を伴い、発刊を伴う。無意識的に人体は常に活動していることを実感させる。
「それもまた君らしい」
恭一は眩しい笑みを向けた。
「なぜ?りょうもう号なんかに?特急なんて使わなくても、あなたなら車で行くと思ったけど」
「終わらせるためだよ」