幻想
恭一は自然な流れで言った。しかしそこには有無を言わせぬものがあった。
鈴音の家族は、父と母、そして弟が一人いる。
二年前は、雨だった。鈴音を除いた三人は、イチゴ狩りに出かけていた。昼間はどんな苦難も感じさせないぐらいの青空が広がっていた。空には夢があり希望が広がっていた。鈴音はアルバイトがありイチゴ狩りにいけなかった。毎年、春になるとイチゴ狩りにいく。
「どうして毎年イチゴ狩りに出かけるの?」
鈴音は訊いた。
「それはね」
父が母を見つめる。母はどこか恥ずかしそうにしている。目元に皺を寄せ、口元を手で押さえている。数秒待っても母は言葉を発しない。元来が照れ屋であり、読書を好む。性格的には母の血筋を受け継いでいる、と鈴音は思っている。
「出会ったらしいよ」
弟のユウマが言った。四つ下。バンド活動に明け暮れているが、芽がでることはないだろう、と鈴音は思っている。音痴だからだ。
「どういうこと?」
と鈴音。
「姉ちゃんも鈍感だなあ」とユウマがジャーンとギターを弾く仕草をする。「だからさ、オヤジと母さんの出会いはイチゴ狩りなんだよ」
ごほん、と父が咳払いを一つし、テーブルに置いてあるコーヒーカップに口をつけ、再びカップをテーブルに置いた。その動作には何かを決意するものが感じられた。
「イチゴ狩りってのはよ、大概が恋人同士だったり友達同士だったり家族連れで行くもんだろ」と父は鈴音に同意を促した。なので彼女は頷いた。
「もう、いいじゃない、その話は」
と母が両手で目の前を制した。が、その手の静止はなんの意味も持たなかった。なぜなら父の口撃はまだ続く。しかし、
「二人とも一人で来てた」
鈴音は笑みを讃えながら両親を見た。
「ああ、姉ちゃん、オチを言っちゃったよ」とタクマが両手を挙げた。
鈴音は舌をぺろっと出し、父を見た。鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしていた。その表情に自然と口角が上がる。母は、なぜか拍手をしていた。シンバルを持ったゼンマイ人形のように。
父はもう一度コーヒーカップに口をつけ口を開いた。「鈴音、オチが早すぎる」
鈴音の家族は、父と母、そして弟が一人いる。
二年前は、雨だった。鈴音を除いた三人は、イチゴ狩りに出かけていた。昼間はどんな苦難も感じさせないぐらいの青空が広がっていた。空には夢があり希望が広がっていた。鈴音はアルバイトがありイチゴ狩りにいけなかった。毎年、春になるとイチゴ狩りにいく。
「どうして毎年イチゴ狩りに出かけるの?」
鈴音は訊いた。
「それはね」
父が母を見つめる。母はどこか恥ずかしそうにしている。目元に皺を寄せ、口元を手で押さえている。数秒待っても母は言葉を発しない。元来が照れ屋であり、読書を好む。性格的には母の血筋を受け継いでいる、と鈴音は思っている。
「出会ったらしいよ」
弟のユウマが言った。四つ下。バンド活動に明け暮れているが、芽がでることはないだろう、と鈴音は思っている。音痴だからだ。
「どういうこと?」
と鈴音。
「姉ちゃんも鈍感だなあ」とユウマがジャーンとギターを弾く仕草をする。「だからさ、オヤジと母さんの出会いはイチゴ狩りなんだよ」
ごほん、と父が咳払いを一つし、テーブルに置いてあるコーヒーカップに口をつけ、再びカップをテーブルに置いた。その動作には何かを決意するものが感じられた。
「イチゴ狩りってのはよ、大概が恋人同士だったり友達同士だったり家族連れで行くもんだろ」と父は鈴音に同意を促した。なので彼女は頷いた。
「もう、いいじゃない、その話は」
と母が両手で目の前を制した。が、その手の静止はなんの意味も持たなかった。なぜなら父の口撃はまだ続く。しかし、
「二人とも一人で来てた」
鈴音は笑みを讃えながら両親を見た。
「ああ、姉ちゃん、オチを言っちゃったよ」とタクマが両手を挙げた。
鈴音は舌をぺろっと出し、父を見た。鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしていた。その表情に自然と口角が上がる。母は、なぜか拍手をしていた。シンバルを持ったゼンマイ人形のように。
父はもう一度コーヒーカップに口をつけ口を開いた。「鈴音、オチが早すぎる」