磁石な関係
「その怪我ー、させたの」
「え、あ、……はい…」
彼女が見つめているのは、さっき巻いてくれたテーピングの位置。
ワイシャツを羽織ったばかりの俺にコツコツとローファーの音と共に近づいて来て、また手首を手に取られた。
細長い指が、ゴツい手のラインをスっとなぞる。
「お、おわだ…さん?」
下手な会話も続かない、そんな空気にドキドキしてしまう。
不思議と潔癖症でありながら、彼女に触れられるとき、手当されるときは全く嫌ではない。
今、この瞬間も同じ。
沈黙が続く中、先に大和田さんが口を開いた。
「…潤も…大きくなったね」
両手で手のひらを優しく包まれ、驚いて顔を見れば、フワッと笑う。
恥ずかしさからか、目が泳いでしまう。
「え、ちょ…らしくないっすよ‼︎どーしたんすか?」
「なによー‼︎らしくないってー‼︎」
「手握るとか、なんか違くないっすか?」
「意味わからん」
ぷっと吹き出す、またいつもの大和田さんに戻った。
錯覚?いや、4年も経てば、少女も女性に変わるのは当たり前。
それと同様に、俺の目の前にいる、いつもは気が強く、おおらかなこの人が、華奢な女性に見えた。
「…大和田さん…」
「ん?どーした?」
「…いや、いつもお綺麗ですね」
「大丈夫、知ってる」
あー、言わなきゃよかった。
ありがとうと言えば可愛いものの。
この人はこういう人だけどさ。
試合の後だったので蒸し暑い。
だから学ランはバッグに入れて持ち帰る。
「お疲れ様、潤」
帰り際に、また大和田さんに声をかけられて立ち止まった。
辺りはオレンジに染まり、球場の向かい側はもう暗くなってきていた。
家路を辿り、着く頃には辺りは真っ暗だろう。
生意気といえど、サバサバしているといえど、女性は女性。
「大和田さん、送って行きますか?」
心配になる、というか、こんな時間まで付き合わせて悪かったというのが本当のところ。
お詫びのようなもの。
でも、彼女は、
「ううん、大丈夫。すぐ近くだから」
首を横に振って、背中を向け、歩き始めた。