略奪ウエディング



そうよ。この状況は普通じゃない。ぼんやりと課長に見惚れている場合ではない。

「大丈夫、悪いのは俺だから。分かってもらえるまで話してみるよ」

私の頭をポンポンと叩いて課長は笑う。

いいえ。悪いのは私だわ。課長に気持ちを寄せながら叶わない苦しさを持て余し、東条さんの元へと逃げ出そうとした。
それでいて気持ちだけはしっかりと課長に伝えたいだなんて。我が儘だった。

だけど課長が私を受け入れてくれるとは露ほども思わなかった。
こんなことが起こるはずなんてなかったのだ。
だからこそ、それを前提に告白をしたのに。

課長の笑顔を見上げながらお見合いを決意した二ヶ月前のことを思い返す。


――「聞いた~?片桐課長!森田主任のこと、振ったらしいわよ」

「え?森田主任が…?」

仕事中、隣のデスクのスミレがコソコソと話しかけてきた。

片桐課長のこうした噂は定期的に会社を賑わせていた。何をしても目立ってしまう彼にまつわるニュースは容易に耳に入ってくる。今回のお相手の森田主任は経理部のアイドル的な存在で高嶺の花だ。
美しい顔立ちと、有能な仕事ぶりに男女問わず憧れている人は多い。

そんな……森田主任が……。


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