略奪ウエディング
六・再燃
還った温もり
牧野が去って二人きりになる。
梨乃は照れているかのように俺と視線を合わせない。
「梨乃。こっちを見て」
俺が呼びかけても目をそらしたまま黙っている。
「ずっと…考えていた。君がこのままいなくなったら…どうなるのか」
「課長…。私も…です」
ようやく彼女は顔を上げた。
「距離を置いて…考えたことは、…君をどうしたら失わずに済むかということ。…バカだよな、自分で言い出しておいて」
俺が笑うと、彼女の頬にふわっと赤みが差す。
一見童顔かと思わせる容姿の彼女だが、よく見ると大人の女性としての魅力が溢れている。
大きな瞳の上に被さる瞼がその角度を変えるごとに彼女の表情を変えていく。小さな唇は艶めいて、零れる吐息が聞こえてきそうだ。
彼女の持つ全てを隠して、誰の目にも触れさせないようにしたくなる。
俺はそっと片手を伸ばし梨乃の頬を包んだ。
「こうして…触れたかった」
俺が言うと、その瞳が潤みだす。
キラキラと…俺を捕らえて離さない、その視線。
「課長、いいんですか…?私で…本当に?」
そのまま彼女を胸に包み込み抱きしめる。
「…ごめん。…自信が…なかった」
髪に口づけながら目を閉じる。
「悠馬…」
名前を呼んだその声が、耳から入り心に染み渡っていく。
「ごめんな。…ごめん」
謝ることしかできない。君を信じてあげられなかった。心に余裕がなかった。君を避けて不安を与えた。
こんな俺で、よかったなら。
「梨乃、…俺は、まだ君の心に…いるか?」
彼女の手が、俺の背を包んだ。
「…あなたしか…見えていないわ…」
「梨乃…っ」
俺たちは久々に感じたお互いの温もりに、しばらく離れることができなかった。