略奪ウエディング



――「二十日は予定を空けておいて。それと家に一度戻っておいで。心配なさっているかも知れない。
じゃあ行ってくるよ」

玄関まで見送った私に彼はそう言ってから軽くキスをする。
私は映画のヒロインにでもなったかのような気分でそんな彼を見送る。
幸せへの道の門が大きく開いて、そこを駆け抜けている。そんな気がしていた。

ブルーだった背景が桃色に変わっていく。悠馬が見せてくれる夢が、余りにも素敵で私は酔いを覚ます暇もない。

これ以上に何が私を待ち受けているのだろうか。


――その日の夜。

彼はいつもより二時間ほど遅い十時過ぎに部屋に帰って来た。

「梨乃…?」

「おかえりなさい。…酔ってるの?」

玄関で靴を脱ぐ彼の様子を見てそう思った。ぼんやりとした表情をしている。

「うん。部長と常務と…飲んでて。…ごめん。連絡する暇がなかった」

「別に謝ることじゃないわ」

部屋に向かって歩きながら答える。

彼の上着から香る微かな香水の匂い。気付いていないわけじゃないけれど仕事の付き合いだから仕方がない。

悠馬はドサッとソファに座りながらネクタイを緩めている。

「あの…、私、今日は帰ろうかと」

疲れた様子の彼を気遣い言ってみる。
悠馬とお酒を飲む機会はこれまでにもたくさんあったけれど、こんなに酔った様子の彼を見たのは初めてのことだった。酔ったといっても、疲れた顔をしている程度だけど…。

「帰らないで」

彼はポツリと言う。

「でも、ゆっくりと一人で休んだほうが」

「怒ったの?遅くなったから?それとも女の子のいる店に行ったから?どうして分かったの?」

「あの」

やっぱり、少し酔っている。

「別に怒ったわけじゃないの、私はただ…」

「いや、梨乃は怒ってる。俺に呆れてる」

「悠馬」


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