略奪ウエディング
「梨乃さん、ごめん、待たせて~」
その時、慌てた様子でこちらへと駆けてきた人を見てギョッとした。
え?何で?
「もうさ~、混んでて途中でタクシー下りたわ。じれったくてさ」
目の前で話す彼女を見たまま唖然とする。
…どうして…?茜さんが?
「あの…?」
「あ、行こうか。早くしないと遅れる」
遅れる?何が?
驚く私の腕を軽く掴んだ彼女はそのまま会社の中に入ろうとした。
「あの、ちょっと待ってください。私もう会社は辞めているので課長を呼び出したりはできません」
彼女は悠馬に用事があるのだと思った。
まさか…私の目の前で宣戦布告するつもりで…!?
「…うん。知ってるわよ。どうしたの?」
茜さんはそれがどうした、とばかりに私を見返して立ち止まった。
「いや、だからですね…」
私はじれったさを感じながらさらに言おうとした。
「ああ、もう、梨乃ちゃん。話は後。急いで」
彼女は今度は、力を少し強めて私の手を引いた。
「茜さん」
呼びかけてももう彼女の返事はない。
彼女はきっと二課の方へと行くに違いない。
そう思いながらエレベーターに乗り込んだが、彼女は二課のある二階ではなく、七階のボタンを押した。