略奪ウエディング

「さあ、降りて。急ぐわよ」

エレベーターが七階に到着し、私の手を相変わらず握ったまま彼女は早足で歩き出した。
彼女が慣れた足取りで目的地に向かうのを不思議に思いながら見る。月瀬ビルの中に入ったことがあるのかしら?
まさか、…私が辞めてから悠馬とここで会っていたとか?
いやいや、ないわ。考えすぎよね。

「茜さん、私待ち合わせをしているんです。戻らないと」

私が言うと彼女は、フフッと笑う。

「待ち人は来ないわ。あなたと待ち合わせていたのは私よ」

「ええ!?」

まさか、彼は私と茜さんと二人で話をしろと…?彼女と会ったことを疑った、あの日のことを怒っているから?

私が頭の中で色々考えていると、彼女は第三ミーティングルームの前で立ち止まった。
この部屋は少人数の会議をするための小部屋だ。

茜さんは躊躇いもせずにその部屋のドアをガチャッと開けると、「入って」と私を促した。

私は震える足でその部屋に入る。

そして…。
目の前の光景を見て、驚いた。
女性が三人、私を見てニコニコしている。

…誰?

知らない人に取り囲まれ、私は声を出すこともできなかった。

悠馬…?これは、どういうことなの…?
心の中で彼に訊ねた。



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