略奪ウエディング
「東条さん!」
東条慎吾は、柔らかく微笑みながら梨乃に花束を渡した。
「梨乃ちゃん、結婚おめでとう。俺は…君を憎むように努力したけど…無駄だったよ。片桐さんが俺のところに来て言ったんだ。君は素晴らしい女性だと。…無理に忘れることなど出来ないと。
心のままに、いけばいいと。俺は…彼になら君を任せてもいいと思った。そう思ったら楽になった」
「東条さ…」
「君に以前言った事を…訂正してもいいかな?」
梨乃は彼を見つめる。
「君に会えて、良かった。…君以上の女性に出会うためなんだと思った」
梨乃は返事ができない状態になっている。
「父が…結婚式を禁止していたなんて知らなくて。でも、謝らないよ。今日が素晴らしい日になるだろうから」
俺は彼に笑って言った。
「あなたが協力してくれれば、そうなりますよ。梨乃と俺の罪悪感を軽くできるのはあなただけなんだ」
東条は笑顔のままで頷いた。
申し訳ない。君の大切な人を奪った。
この罪は一生をかけて償う。彼女を幸せにすることで。君といるよりももっと幸せを感じてもらう。そうでないと、梨乃と君に言い訳が立たないから。
「あ~、片桐。そろそろ始めんと、ご家族の方もお待ちだぞ」
アカマメに言われて気付く。
部長のそばにいる俺と梨乃の家族に軽く会釈をする。
「梨乃。…こっちだよ」
俺が腕を出すと、彼女は嬉しそうに手を絡めてきた。
そのまま歩き出すと俺たちの後ろから皆が付いてくる。
これからもこうして君を連れて歩いていこう。
どこまでも、いつまでも。
君が迷って泣いたときには、俺がこの手を差し出して道しるべになるから。
もう、離さないから。