略奪ウエディング



「…あの……梨乃さん?」

雛壇に二人並んで座ると、年輩の夫婦が私に恐る恐る近付いてきた。

「父さん、母さん」

私よりも先に彼が言う。

ええっ!ご両親?
私は慌てて立ち上がり頭を下げる。

「あの、早瀬梨乃です。あの、私、何も取り柄のない者ですが、悠馬さんを愛してます。そ、…それしか…ないんですけど」

言いながら思う。本当に私には何も誇れるものなんてない。課長みたいなキャリアも資格も、何も。
いつも彼を困らせて、考えすぎで、……泣き虫で。

お母さんはにこりと笑って私の肩にそっと手を乗せた。

「何もないなんて言わないで。…悠馬が好きなら、それで十分ですよ。悠馬も何もないわ。あなたに対する気持ちしか」

私は顔を上げた。
彼によく似た、綺麗な女性。優しく包み込むような笑顔。

「ありがとう…ございます」
心から思う。彼を産んで、私に出会わせてくれた人。あなたのお陰で私の今の幸せがある。

隣でお父さんもニコニコと私を見ている。

「ごめんな、わざわざ来てもらって。来週こっちから梨乃と行くつもりだったんだけど」

彼が言うとお母さんはケラケラと彼によく似た笑い方で楽しそうに笑った。

「息子の披露宴……、いや、送別会に来ただけよ。あなたが謝るだなんて。ずいぶん彼女に色々教わっているのね」

「俺だって詫びることくらいある」

「いいえ、なかったわ。ひねくれ者だもの。自分の非は認めない。でも…今回のいきさつにはさすがに考えさせられたようね。…精進しなさいよ。お嫁さんに後悔させるんじゃないわよ」

「…何だよ、説教か。格好つかないなぁ」

皆で笑う。優しそうなご両親。私は温かな気持ちで三人を見つめていた。


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